波のメカニズム

今回このサイトをつくる前、いまから遡ること数年、同じように、GPVなどの数値情報をベースに波情報を自動生成するシステムを作ろうと試みていた時期がありました。

その際にも、今回構築したものに近いシステムを設計し、ある一点を除いて実装までたどりつけていたのですが、最後の一点、システムの中核、キモとなる「GPVの数値情報を総合して、波情報の点数に変換する」という部分が実現できずに断念したという経緯があります。

今回、その部分を回帰分析によって実現し、(仮)リリースまでたどり着いたわけですが、せっかくですので、このシステムを作るために今までに調べた「波のメカニズム」を共有しておきたいと思います(以下に書かれている内容をシステムに落とし込んだものが、このサイトの「波情報を自動生成するシステム」です。これがこのシステムの全てといっても過言ではないかも。共有すれば誰かに真似されてしまうかも知れませんが、真似したければしていただいてもかまいません。それはそれで、きっと、多くの人にとって良い結果を生むことにつながると思うので)。

 

【波とは】

波とは、風によって水(海面)が動かされたものであり、物理学的には、水面におこった波動状の運動、ということになります。この波動は一般的な波長と同じくエネルギーの伝播であり、水そのものが移動をしている訳ではありません。

<波の大きさは以下の様に表します>
波高:波の最も高い部分(頂上)から最も低い部分(谷)の間の高さ。メートル、フィートなど距離の単位で示す。
波長:波のある頂上から次の頂上の間の長さ。メートル、フィート等の距離の単位で示す。
周期:ある地点を波の頂上が通過してから、次の波の頂上が同じ地点に到達するまでの時間。秒で示す。

簡単にいえば、波は「高さ」と「奥行き」をもってその大きさを示す、ということです。「高さ」は波高という距離の単位で示されますが、「奥行き」は波長(距離)または周期(時間)といういずれかの単位で示されます。この「奥行き」を示す波長と周期の関係は以下の様な計算式で示すことができ、表現の単位が異なるだけで、同じものを示していると言えます。

波長=(重力加速度9.8×周期の二乗)/2π
≒(周期の二乗)×1.56

例えば、周期4秒の波の波長は
4×4×1.56≒25m
となります。

また、同じ2mの波高の波であっても、周期(波長)が異なれば全く異なる波、ということになります。周期が4秒の波の波長(奥行き)は上記の通り25mになりますが、例えば周期が10秒の波の波長は156mにもなります。この2つの波を比較すると、波のエネルギーが伝播する際に動く水の容積の比は156÷25=6.24となり、エネルギーの大きさにして6倍以上の開きがある、というということになります。このエネルギーは、沿岸部で破砕(ブレイク)するまで保存され続けます。

 

【風浪とうねり】

海上で風が一定の方向にある条件を満たして吹くと、その位置での海面が動かされ、風浪という波が発生します。風浪の高さは、その原因となる風の強さ(風速)、風が吹いている風域の長さ(吹送距離)、風が吹き続けている時間(連吹時間)に応じて高くなります。また、この3つの要素はそれぞれが最大波高に対する限定条件でもあり、波はこの3要素の中でもっとも条件が限定された要素に応じて発達します。風が十分な距離を連続して吹いている場合、発生する風浪は以下の様な計算式で求めることができます。

最大波高=(風速の二乗)×0.26/重力加速度9.8

例えば、風速15mの風が吹き続けた場合、風浪の最大波高は15×15×0.26÷9.8≒波高6m周期10秒になります。この風速15mのときに発生する風浪が、最大波高の6mまで発達するために必要な連吹時間はおおよそ70時間、吹送距離は1850kmです。
仮に、同様な条件で、風速15m、吹送距離が1850kmであったとしても、連吹時間が30時間しかない場合、連吹時間30時間が最大波高を限定する条件となり、波高は5m、周期は9秒となります。
また、風速15m、連吹時間70時間であったとしても、吹送距離が550kmしかなければ、波高は4m弱、周期は8.5秒程度となります。

風による風浪の発達にはもう一つ条件があり、波高は、理論的には波長の7分の1、現実的には最大でも10分の1程度の高さまでしか発達できないとされています。また、実測による観測結果では、波高は波長の15分の1から25分の1程度となることが多い様です。つまり、沖合で風速30mの風が条件を満たして吹き続けたとした場合、最大波高の計算からは、30×30×0.26÷9.8≒波高23.87m程度の風浪が発生することになりますが、この波が実際にこの大きさまで発達する為には、その波の波長は波高の10倍=238mから25倍=596mである必要があり、周期は、最低でも12.4秒程度、実測値を考慮して大きく見積もった場合には19.5秒もの長い周期をもった波でなければいけない、ということです(日本近海でここまでの長い周期の値をみることは少ないですが、例えば冬のハワイ ノースショアでは、20秒前後の周期のうねりが実際に到達しており、冬のノースの15〜20フィートオーバーの殺人的な波をブレイクさせています)。

発生した風浪のうち、その原因となる風がおさまった後に残ったものや、その発生条件を持った海域を出て、その他の海域にまで伝播するものを「うねり」と呼びます。うねりは進行方向に伝播を続け、その方向に陸地があれば、沿岸に到達します。陸から風が吹くオフショアの日や、無風の日に沿岸に立っている波は、沖で吹いた風によって発生した風浪がうねりとして到達したものです。長い距離を伝播して沿岸までたどり着くうねりは、風浪よりも波長が長く、そのエネルギーも大きなものとなります(なお、日本海洋データセンターでは、8.0秒以下の周期のうねりを「短く」、8.1秒から11.3秒の周期のうねりを「中くらいの」、11.4秒以上の周期のうねりを「長く」、として分類しています)。

 

【波と海底】

はるか沖でうまれた波は、沿岸にたどりついてブレイクするまでに、2回、海底の影響を受けます。

最初の説明で、波の大きさはその「高さ」と「奥行き」をもって示す、といいましたが、その運動は、波高よりもはるかに深いところ、波長の半分の深さまで及んでいます。波を水の粒子の動きとしてみると、水の粒子の運動は、その場で回るタイヤの様な円運度となっています。そしてこの円運動は、縦に、深い場所にいくほど小さな円となって、その波の波長の半分の深さまで連なり続けています(イメージで言えば、波長の半分の深さを先端とした、「じょうご」の様な形ということです)。波は、海中には「じょうご」の様な運動部を持ち、その波長の半分の深さまでの水をかき回す運動をしながら、波動状の運動を進行方向に伝播しているのです。

波は、この運動の範囲の深さ、つまり波長の半分よりも深い場所においては、海底の影響を受けること無く伝播し続けます。その速度は

(波長×重力加速度9.8÷2π)の0.5乗(ルート)

で計算されます。例えば周期8秒≒波長100mの波であれば、(100×9.8÷2π)のルート≒12.5m/秒(45km/h)の速度ということになります。

ちなみに、津波は波浪とは異なる長波という波であり、この長波の速度の計算式は、(深さ×重力加速度9.8)のルート となります。東北関東大震災の三陸沖130kmを震源とした地震の場合、震源地の水深は1000m程度ですので、その発生直後の速度は、(1000×9.8)のルート≒99m/秒(356.4km/h) 程度であったということになります。また、津波の波長は震源域の広さに比例し、一般的な波浪の波長が数十mから数百mであるのに対して、津波の波長は短いものでも数km程度、長いものでは数百kmという長さになることもあります。この様な長い奥行きを持った津波は、波というよりは海そのものの盛り上がり(津波の高さ分、海全体が盛り上がっている)であり、また、含まれるエネルギーも、一般的な波浪の数百倍、数千倍という巨大なものになります。

自らの波長の半分より深い洋上では、波は上記の速度で進み続けます。しかし、波が自らの波長の半分の水深(浅海域)に到達すると、波の下に伸びたじょうご状の円運動部が海底にあたり、波は海底から最初の影響を受け、速度は低下します。これを「浅海効果」といいます。例えば、周期4秒≒波長25mの波であれば水深12.5mの海域、周期8秒≒波長100mの波であれば水深50mの海域に到達すると浅波効果が発生する、ということです。浅海効果には、浅海域進入後、水深が自らの波長の6分の1の深さに至るまで波高が若干低くなり続ける「浅水変形」や、海岸線に対する進入角度が垂直で無い波が、最も海岸線に近い部分から順番に浅海効果を受け、波の端から順番に速度低下が起こることによって海岸線に対して垂直になるように曲がる「屈折」などがあります。屈折によって起こるものの少し変わった例としては、岬周辺の「ポイントブレイク」で周辺よりも波が大きくなる現象があります。これは、岬の両側面から付け根に掛けての扇状の地形に対して、波が垂直に向かおうと広がりつつ屈折していった結果、岬の先端に波が集まることによって起こる現象です。逆に、湾の中央部では波が扇状に広がって拡散し、波が小さくなります(ちなみに、「ポイント」は岬を指す言葉で、「サーフポイント」というのは「サーフィンができる岬」という意味です)。

 

【波の角度と減衰】

どの様な方向に進んで来た波も、浅海域に進入して浅海効果で屈折することによって、その進行方向は海岸線に対して垂直になります。この屈折が起きる際、波は減衰します。具体的には波高の低下が発生します。波長は影響を受けません。屈折による波高の低下も計算によって算出することが可能ですが、その値の計算式はかなり複雑なものになります。おおよその値で言えば、波が進む角度と海岸線の垂線が成す角度(つまり、屈折する角度)が、26°以下であれば波高の減衰は5%以下、角度が36°までで波高の減衰は10%、角度50°で減衰20%、角度76°で減衰50%と、角度が大きくなるほど減衰は大きくなり、また、角度が大きくなるほど、1°の角度増に伴って増加する減衰率も大きくなります。

 

【波のブレイク】

浅海域に進入し、浅海効果を受けた波は、海岸線に対して垂直に進み続けます。水深が自らの波長の6分の1の深さに至ると、浅水変形は終わり、波高の低下は終了します。その間にも、波の下に伸びたじょうご状の円運動部は海底にあたり続け、行き場を失った運動エネルギーは海面近くの波の部分に蓄積されていきます。そして、水深が波高と同じ深さの場所に到達すると、波は海底からの2回目の影響を受けます。行き場を失ったエネルギーは波の上部に一気に集中し始めます。水の粒子の円運動は勢いを増し、波の頂が前がかりに前方に突き抜けんばかりとなり、この近辺から波高の3分の2程度の深さの近辺で、波はブレイクします。これを破砕といいます。

波の破砕の仕方は、海底の地形及び波の波長と密接に関係します。遠浅の海底では、波はゆっくりと破砕を起こすため、一般的に厚いブレイクとなります。逆に、珊瑚礁の様な、急激に浅くなる海底では、波は急激に破砕を起こし、パワーのある掘れたブレイクとなります。破砕の緩急に加え、波長はそもそもの波の持つエネルギーの量を現していますので、波長が短くパワーに乏しい波がゆっくりと破砕すれば、更に厚いブレイク、波長が長くパワフルな波が急激に破砕すれば、ぐりぐりのチュービーなブレイクとなります。しかし、日本に多くみられるビーチブレイクのポイントでは、これらの条件に基づいて一概に波の善し悪しを判断することは難しいと考えます。その海岸線が属するエリア全体の特性(砂の供給状況と浸食状況、堤防やテトラポッド等の人工物の存在)、そのときの砂の付き具合/海底の地形と、その地形に適した波長であるかどうか、という組み合わせによってその日の姿を変えると考えた方が良いでしょう。

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